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知床の鮭事情について(サケマスふ化場見学)

2021.10.30

アクティビティ イベント ネイチャー ネイチャーガイド ヒグマ

知床の鮭は、知床の食物網のなかで中心に位置するといっても過言ではない貴重な存在です。

鮭が産卵するのに適した環境の川がいくつもあること、豊かな森から生まれる成分が川を伝って海に戻ること、そして鮭のふ化や漁具の改良、網を張るタイミング、そのすべてがつながっています。

漁獲量が日本一と言えど、知床での鮭の漁獲量は年々少なくなってきているのが現状です。

この漁獲量を安定化させるため、また知床で生まれた鮭が海へ旅立ち、再び知床へ帰って来たときに、産卵に適した場所であり続けるために知床の漁師の方をはじめ、町をあげて鮭の漁獲量を増やすための活動をしています。

 

(画像:環境省ホームページ引用|https://www.env.go.jp/nature/isan/worldheritage/shiretoko/uiversal/index.html)

人工ふ化を行う岩尾別ふ化場

 

知床五湖に行く途中にある遠音別村イワウベツに位置し、岩尾別川の河川水をそのまま使用し、ふ化・養殖しています。対象種はカラフトマスです。今の漁獲量は自然産卵だけでは補えないので、ここ岩尾別ふ化場にて人工ふ化に力を入れています。

そして今回、「岩尾別ふ化場バスツアー」が期間限定プログラムとして開催され、普段立ち入ることのできない知床国立公園の岩尾別ふ化場を特別に見学する機会がありました。このツアーでは、サケの遡上やふ化場での全体的な作業の流れ、ダムによる遡上への影響など、非常に内容の濃いスケジュールが組まれています。

このツアーを通じて学んだ、私たちにとって身近な鮭についてや、これから重要視していかなければいけない問題を含め、”知床の鮭事情”を書いていこうかと思います。

 

 

(写真:岩尾別ふ化場 外の蓄養池・養魚池)

 

まずは岩尾別ふ化場での作業の流れについて簡単に説明します。まず、海から上がって来た鮭は一度蓄養池(上の写真)で保管された後、ふ化場にて卵を受精させる作業をします。この時、オス・メスともに頭をたたいて脳震盪させ、からだの中から卵・精子を出します。卵などを出した鮭たちはその後、鮭とばなどに活用されます。

(写真:建物→岩尾別ふ化場公開制限区域)

その後、取り出されて受精が終わった卵は、岩尾別ふ化場の建物のあるふ化層にてふ化するまで眠らせます。上の写真にもあるように、こちらのシャッターの内側にふ化層があるのですが、普段は関係者以外立ち入り禁止となっており窓も必要最低限しかなく、受精卵が自然の中で暮らしているのと変わらないような環境づくりを徹底して行っていました。今回のツアーでは、この建物の中も実際に入る事ができ、受精卵から稚魚になるまでに過ごす水槽を見学しました。水槽といってもただの箱ではなく、ボックス式ふ化層といって常に新鮮な酸素が受精卵に届くような設計、かつ雑菌の繁殖を抑えたつくりになっており、細かな配慮をものすごく感じました。

そして稚魚へのエサやりの点でも配慮していることがありました。人間がエサをあげている姿を稚魚が覚え、自然に帰った時に大きな生物に近づくことでエサがもらえると認識しないように、ここの方たちは床に這いつくばってエサをあげているそうです。こういった小さな配慮から水槽設計の大きなことまでの積み重ねにより、大きく立派に育った鮭は海へと旅立っていくと思うと感慨深いところがあります。

 

実際に遡上している川へ

(写真:安全な距離でバスの中から撮影したヒグマの様子)

 

遡上の時期になると、ヒグマも鮭を狙って川の下流まで降りてきます。今回も、バスの中からですが、ヒグマの姿を見ることができました。

 

また、この黒いアイテムは何だと思いますか?水の反射を抑えて水中を観察しやすくなる偏光レンズなのですが、これを通して見ると鮭の動きがとても良く分かるのです…!個人的にこのシートには本当に感動しました(笑)オス・メスそれぞれの役割があり、自分の子孫を残すために一生懸命に動く鮭たちを実際にみることができるのは、ここ知床ならではだと思います。

 

漁獲量減少の要因の一つとなっているダムへ

さらに、ツアーの内容の一つにダム見学があります。今回見学したダムは、鮭の遡上に関して大きく影響しており(特にサクラマス)、ダムがあることによってさらに上流を目指していた鮭たちが上まで行けず、ダムの真下で鮭のたまり場が出来てしまい、うまく産卵ができなくなっているのが現状です。

 

(写真:遡上する川に建つダムと手作りの魚道)

 

そんな現状を少しでも改善しようと、知床の団体が力を合わせ、手作りの魚道を制作していただいたそうです。

(写真:ダム横に作られた魚道)

 

魚道を横から見るとこのようになっており、支えとなっている木は、知床の森で間伐のために切られたアカエゾマツを使っているそうです。この木は腐ったりしないの?と思うかもしれませんが、ずっと水に浸かっていると空気に触れないため、菌が繁殖しにくく20年はもつだろうといわれています。

 

知床は、18年以上連続で鮭の漁獲量が日本一です。

ただ、日本一になり続けるにはやはり自然の力だけではなく、私たちの人工的な力も少なからず必要になっていること。私たちの力添えが、知床の鮭にとって強力になりすぎたりすると、後々の鮭にとっては悪影響になってしまうので、そのバランスをうまくとりながら人が入り込んでいくことがとても難しいことだと。”ただ鮭が獲れるから。知床の川に多く帰って来るから。”ではなく、表には出ていないたくさんの努力を全身で感じられました。

まだまだ ”知床” について知らないことばかりです。

 

(写真:レストラン接客スタッフ 和田美和/文章:広報 髙橋あゆみ)